バラの病気と対処法
防除の方法は、当園の環境におけるやり方をご紹介しています。様々な考え方の一つとして参考にしてください。
バラ作りの中で最もハードルが高いのが病害虫の防除だと思います。近年は「病気に強い」ことをコンセプトとしたバラも多くなり、以前に比べ気軽に楽しめるようになりました。
ガーデニング用のバラの品種はもともと屋外で育てることを前提とした品種のため病気に強いものが多いですが、予防をしておくと楽に育てられますので、早期発見、早期防除に努めましょう。目視で症状を確認ができるような状態は最終段階であり、蔓延すればするほど対処は困難になってきます。春の開花の前だけでも定期的に薬剤散布をするなど、折角の花の時期をストレスなく過ごせるように予防をしていきましょう。
病害虫予防のポイント
初級編
- バラの栽培環境を整える。(陽当り、風通しなど)
- 初心者向けの病気に強い品種を選ぶ。
- 水やりはできるだけ葉にかけないようにする。
- 柔らかい水流で水やりをし、地面の跳ね返りがないように気を付ける。
- 水やりをするとしたら朝が良い。
- 肥料は控えめから始める。
- 株元にたい肥でマルチングをする。
- 落ちた葉や花びらなどはこまめに掃除をする。
- 新芽が出始める3月から、早期発見のため状態を観察する。
- 過度な水やりや追肥を控え、過保護にしすぎない。
中級編
- 予防のための薬剤散布を行う。
- 病害虫が発生したら、早めに症状に対応した薬剤を散布する。
- 薬剤散布が難しかったら、スプレータイプを散布する。
- 散布が難しい場合は、土にばらまくタイプの病害虫用の粒剤を3月と9月に使用する。
薬剤散布のコツ
3月になり新芽が3cmほど伸びたら、その年の消毒のスタートです。予防薬の散布を開始し、10日に1回ペースを目安に散布しましょう。こまめな散布が難しい方は、春の開花まで2~3回散布すると結果が全然違いますので頑張りましょう。散布そのものが難しい方は、病害虫予防の粒剤を土の上に撒いて様子を見てみます。
- ウドンコ病、黒点病…ジマンダイセン、オーソサイド、など
- アブラムシに効果のある薬…プレオフロアブル、モスピラン、など
もし、黒点病やウドンコ病が発生した場合は、一時的に治療薬を使用して、病気の広がりを食い止めます。
- 病気も虫も、同じ薬を使い続けると、薬への耐性ができやすくなりますので、それぞれ数種類の薬を交互に使います。病気用、害虫用をそれぞれ3種ずつ持ちローテーションするのが理想です。
- 薬剤散布は、効果を高めるために、株全体とくに葉の裏に十分にかかるように心掛けます。地面にもかけておきましょう。せっかく大変な消毒をするのですから、本当に丁寧に流れるほど行います。
- 一般的な殺菌剤と殺虫剤は混ぜて散布ができます。使用方法をよく読んで、濃度を守り散布しましょう。
- 薬の濃度は、例えば「1000〜2000倍」と記載があれば、まずは2000倍の薄いほうの濃度で希釈し、まんべんなくたっぷりとかける事が大事です。
- 夏の高温期の日中は薬害(葉が縮れる)が出やすいので、朝夕の涼しいときに行うようにしましょう。
- 夕方遅くなってからの散布は、そのまま乾かず一夜を過ごすと薬害が出るので、薬の乾く時間も考えて散布します。
消毒初心者の方
本格的な消毒は敷居が高い方もいらっしゃるでしょう。でも、毎年何かの病気に悩まされ、どうにかしたい・・・と思われたら、まずはスプレー式や株元にばらまくタイプなど気軽な消毒で始めてみましょう。スプレー剤は、株全体とくに葉の裏に十分にかかるように心掛けます。ただし、これらの初心者向け消毒剤は治療効果は弱いので、あくまで予防薬として考えて使用します。
スプレータイプ・・・ベニカXネクストスプレー、フローラルガードAL(二つを交互に使用すると効き目アップ)
土の上にばらまくタイプ・・・ベニカXガード粒剤
どうしても効果が上がらない場合は、本格的な消毒薬を試してみましょう。効果のほどを体感できると思いますので、今後抵抗なく使用できるのではないでしょうか。また、そのほうが長い目で見るとずっと経済的です。
まずはやってみましょう!
予防が大事
病害虫に強い栽培環境を作り、病害虫に強い株を育てることが大事です。
植物が密集していると、陽当り風通しが悪くなり、菌も繁殖しやすく、虫や病気が発生しても気付きづらいものです。
バラにとって良い環境で育て、引き締まった良い株になると、葉の厚みも出て病害虫に対し強くなります。株間を広くして栽培していると、病害虫に目が行き届きやすくなり、早期対策をとることができます。
天候が悪いと日照が少なくなり、葉が薄く病気に弱くなりますから、予防にいっそう努めます。
同様に、葉が薄くなる原因として、即効性の肥料を使いすぎることもあります。花屋さんで売っている切りバラの葉は綺麗ですが薄いですよね。加温し、肥料も多めに与えると次々と花は咲きますが、どうしても病気には弱い体質になってしまいます。切り花生産者の十分な管理下で育てられているので、商品として出せるのです。
もともとウドンコ病が発生しやすい庭でしたら、花の時期は窒素分を控えるなど、工夫をしてみるとよいでしょう。例えば、私共で販売している肥料でしたら、ミラクル(窒素、カリ主体)とユーキリン(リン酸主体)の比率を通常1:1から1:2に変更をし、施肥量を全体的に減らします。
気温と湿気の関係も重要ですので、朝の水やり1回で済ませられたらベストです。春と秋に水分が残ったまま夜を過ごさせると、丁度うどんこ病が発生しやすい環境を作っているようなものです。
殺菌剤のご紹介
病気には様々な種類がありますが、一部の殺菌剤を除きほとんどの病気に効果があります(購入時に効能をご確認ください。)
※治療薬が効くからと言って治療薬ばかり使用していると、いざという時に効かなくなりますので、あくまで一時的な使用にします。
薬剤は商品名でなく系統別にローテーションで使用するのが、病気への耐性を作らないコツです。
下記は分かりやすく系統別に(A)~(F)に分けています。
(A)ジマンダイセン
(B)ダコニール、オーソサイド
(C)フルピカフロアブル
(D)トップジン、ベンレート
(E)サプロール、サルバトーレ
(F)パレード
-
通常の使用例
予防薬(A) → 予防薬(B) → 予防薬(C) → 予防薬(A) →予防薬(B)……
-
病気が発生したら、一時的に治療薬を使用する例
予防薬(A) → 予防薬(B) → 病気発生! → 治療薬(D)→様子を見て効果がありと判断 → 予防薬(C) →予防薬(A)…
※同じ薬剤ばかり使用していると、菌や虫はその薬に対する耐性を持ち、効果が上がらなくなります。
病気用と害虫用をローテーションできるよう各3種ずつ持っているとよいでしょう。
※治療薬が効くからと言って治療薬ばかり使用しているといざという時に効かなくなりますので、あくまで一時的な使用にします。
※必要に応じて展着剤を使うと効果的です。
対処法
- 発生
- 主として春と秋。気温15~25℃の時期。
- 症状
- 新芽や蕾などが白い粉をまぶしたようになる。
- 防除
- 予防薬:ジマンダイセン、フルピカフロアブル、ダコニール、オーソサイド
治療薬:サプロール、サルバトーレ、ベンレート、トップジン、パレード
- 発生
- 春から秋、気温が高くなると出やすい。
- 症状
- 葉に黒い点々がにじんだように広がり、葉が黄変し落葉する。
- 防除
- 予防薬:ジマンダイセン、フルピカフロアブル、ダコニール、オーソサイド
治療薬:サプロール、サルバトーレ、ベンレート、トップジン、パレード
- 発生
- 春から夏にかけてコブが大きくなるので気づく。
- 症状
- 接ぎ木部分や根に、表面がデコボコした暗褐色のコブが大きくなる。
- 防除
- 防除は難しいので、相談できるお店で購入する。
※当園では、ご購入いただいてから2年間は補償をしています。症状と品種タグを確認させていただきますので廃棄前にご連絡ください。
写真のように葉の周りが茶色くなり、「病気!?」と心配になる方がいらっしゃるかもしれませんが、これは、強風や高温による一時的な乾燥による生理現象で、次の芽は綺麗に伸びて来れば心配はありません。
毎日水やりをしていても、例えば人間が涼しいと感じる風のある日はバラにとっては乾燥が加速する日ですので、いつもより多めに与える必要があります。また、とても暑日は、葉からの水分の蒸発に根からの吸水が追いつかず、いくら水を与えたからといっても、水不足の状態になることもあります。生育には問題なく自然の中ではある程度仕方のないことではありますので、心に余裕を持って育ててください。
また、株の真ん中あたりの葉が急に明るい黄色になって驚く場合もあります。その場合、ここ1週間くらいを思い返してみてください。
急な高温や強い日照にもかかわらず、水やりを怠ったり、株に対して鉢が小さいままにしておいたり、夏の少々の雨で安心したり、どこかでバラにとって水切れになる原因を作っていませんか。新芽が綺麗でしたら復活しますので、落ち葉は掃除し、新芽は花を咲かせず体力温存してください。
とくに春に多いですが、写真のように蕾が付くはずの枝が蕾がつくことなく止まってしまうことがあります。
これを「ブラインド枝」と呼び、病気ではありません。
その枝の充実度が足りないためもありますが、一番の原因は、春先に寒の戻りがあった場合です。仕方がないことですので、ブラインド枝を見つけたら、通常の花がら切りのつもりで、5枚葉の上で切ってください。早めに切れば、他のバラが終わった頃、5月末頃に美しい花を咲かせてくれることでしょう。
また、最初に花芽を付けなかったことで、栄養を使いすぎていないため、切った後の芽吹きが大変良いですから、あまり気にしないでください。
バラの害虫
害虫駆除は基本的には発生を確認したら散布するという姿勢で良いと思いますが、目で確認できないこともありますし、気が付いたときには大発生していたということもありますので、毎年悩まされる害虫があるならば、その時期には定期的に散布していきましょう。
アブラムシやハダニなど小さな虫は薬の耐性がつきやすいので、薬剤は必ずローテーションさせます。
緑色又は褐色をした小さい虫で新しい茎や葉から養分を吸収し、1年中発生します。殺虫剤をかけますとすぐに駆除が出来ますが、繁殖力が盛んで数匹残っているだけで、大発生しますので注意が必要です。
オルトラン、アルバリン、ベストガード。
蛾の一種の幼虫です。葉裏に産卵し、最初は群がるように食害し、成長すると、分散しながら新芽や花弁、蕾までも食害します。大きく成長すると駆除が難しくなるので、早めに対策をしましょう。
オルトラン、プレオフロアブル、アファーム乳剤
6月頃から葉の表面がかさかさに乾いた様に変色します。とくに高温乾燥期に多発します。肉眼では確認できないほど小さいので、ティッシュで葉裏をこすってみます。ダニが発生していてたら、赤い体液を確認出来ます。
薬剤は色々ありますが、耐性が付いていることが多い虫ですので、新薬を使用するようにすると効果が高いです。
6月~7月に成虫が飛来し、バラの木、特に根元に産卵し、ふ化した幼虫は茎の内部を食害し、空洞を作り茎を一周すると上部は枯死します。右写真の成虫を見つけたら「百害あって一利なし」。すぐに捕殺します。
写真のような枝をかじった痕があったら要注意。近くに成虫がいるという証拠です。子孫を良い状態で残そうとするためか、よく太った株を狙って産卵しようとするように思います。
成虫駆除:モスピラン
幼虫は、木クズのようなフンを地上に出しますから、フンを見つけたら穴に針金を入れて幼虫を刺し殺すかEPN乳剤等(残った殺虫剤で可、スプレー式のカミキリ虫用の薬も販売されています。)を注入して殺します。
体長1~1.5cmで、腹部全体がオレンジ色でで黒い羽を持ちます。茎に卵を産みつけ、卵から幼虫が孵り葉を食べてしまいます。
産卵中は捕まえやすいので捕殺し、産卵した場所は切除します。
体長2cmほどで胴にオレンジ色の帯のあります。4月中旬から5月中旬に発生します。この時期に新芽の茎に産卵しますが、この時に茎の導管を切断するため急に新芽がしおれます。(写真参照)このハチは飛来して産卵しますので完全防除は困難ですが、定期的な消毒である程度防げます。
被害茎には、縦に2mm位の黒い傷が有ります。そこに産卵していますからこの部分を除くように茎を切ります。
温度が上がってくると、花びらの間に細かく小さな虫がうごめいていることがあります。見た目も悪いですし、花びらの先が茶色に傷んだりします。薬剤を散布するときは、花びらの中まではなかなか効きづらいので、花がら切りをした後か、蕾の時が一番良いですが、開花時も大発生しているときはやらざる負えません。
花がかわいそうとか言わないで、しっかり散布して駆除してあげましょう。
モスビラン、カスケード、(オルトラン粒)
5月頃から新芽の先(花や蕾)を飛来した成虫が食害し、土の中に産卵して孵化した幼虫(写真参照)が根を食い荒らし、葉が黄変し枯れることもあります。
成虫は、見つけたら捕殺しますが、朝早い時間帯は動きが鈍く捕まえやすいです。
コガネムシ成虫:モスビラン
子孫を良い状態で残そうとするためか、腐葉土の多い良い土を選んで産卵するので困ったものです。細根を全て食べられてしまいます。復活するかどうかわかりませんが、なるべく根を残して植え替えるしかありません。
(コガネムシ幼虫に)ダントツ粒、アドマイヤー粒(予防)、ダントツ水溶剤(駆除)
初心者さん向け育て方
まとめ&基礎用語
バラの基礎用語
新苗(しんなえ)
前年の秋か年の初めにノイバラの台木に接がれた苗で、4~6月に売り出される。1~2本の枝が伸びている。芽が出始めて半年足らずの幼木期にあたる。
大苗
新苗を秋まで育てたもの、またはそれ以上。2年苗ともいい、枝が太く枝数が多い。新苗より株が充実し初心者には手間なく扱いやすい。
四季咲き性(しきざきせい)
気温など一定の条件のもと、次に伸びる枝に花をつけ、次々と開花を繰り返す性質。だいたい春から秋まで咲き続ける。
一季咲き性(いっきざきせい)
主につるバラで春に1度咲く性質で、桜のように見事な景観を作る。しなやかな枝で長く伸び、誘引がしやすいのも特徴。
返り咲き(かえりざき)
つる性のバラで春の開花後は環境に左右されながら不定期に咲き、秋に咲くものも多い。株が充実すると返り咲きしやすくなる。
木立性(きだちせい)
枝がつるにならず自立できる四季咲き性のブッシュタイプ。花がら切りをした後に出てきた枝の先に花が繰り返し咲く。
木立性のバラ一覧
つる性(つるせい)
枝がつるのように伸びる、クライミングタイプ。アーチやフェンスなどに誘引して華やかな空間を作る。
つる性のバラ一覧
半つる性(はんつるせい)
ほどほどの伸長力のあり、春の開花後は不定期に咲く。長く伸びる枝を生かしてつる性にもでき、短く切っても蕾を付けるので木立ちバラのようにもできる。「シュラブ」もほぼここに含まれる。
台木(だいぎ)
ガーデニング用のバラ苗はほとんど接ぎ木苗で販売され、その根の部分を提供する植物のこと。日本ではノイバラが多い。
5枚葉(ごまいば)
5枚の小葉でできた葉。バラの場合はメインの葉になる。5枚葉のもとに芽がある。
シュート
株元や幹から出る太くしっかりとした枝で、次代の主幹となる。出てきたばかりのシュートは摘芯をして花を咲かせないことが大事。ピンチすることにより脇芽が出て、葉の数が増え、株が充実する。
頂芽優勢(ちょうがゆうせい)
高い場所の枝先に近い芽の発育が旺盛で、集中的に栄養や水分が運ばれるバラの性質。バラは頂芽優勢を崩しながらバランスのとれた株にするとよい。
剪定(せんてい)
伸びた枝や枯れ枝、細い枝などを整理して、さらに枝を切り詰める作業。残した枝に栄養分を集中させ、美しい花を咲かせるために行う。
マルチング
たい肥やチップなどで土の表面を覆うこと。土の水分蒸発を抑え、雑草防止や防寒・防熱、病気予防にもなる。根を守り株の充実に有効。
堆肥(たいひ)
土壌に有機物を供給して豊かな土づくりをするためのもの。腐葉土や牛糞堆肥など完熟のものを使用する。根を守るマルチングにも使用できる。
堆肥一覧
肥料(ひりょう)
植物の生育に必要で、自然のままでは不足しがちな栄養素を補う。特に繰り返し咲くバラには必要であるが、やりすぎには注意する。
肥料一覧
摘芯(てきしん)
枝先や蕾、新芽などを摘み取ること。ピンチともいう。これにより、脇から芽を出させて枝数を多くしたり、形を整えたりすることができる。
摘蕾(てきらい)
蕾を咲かせないで摘み取ること。花を咲かせることは体力を消耗するので、特に新苗を育てるときや夏場は蕾が見えたら摘み取り株の充実を図る。
バラはお世話をすれば正直に美しい花で応えてくれます
魅力に気づいた人々が知恵を重ね、上手に咲かせる方法を教えてくれています。最初はだれでも初心者です。長年バラを育ててらっしゃる方がその魅力ゆえ頭を悩ませるのは、更に美しく咲かせたいという思いがあるからでしょう。バラの花色や形、大きさは天候や庭の環境に左右されます。どうか、バラ栽培がストレスにならないよう、寛容な気持ちをもって育てて欲しいと思っています。
先代は60年間バラ苗の生産に従事しましたが、人生最後まで畏敬の念をもってバラに向き合いました。「なんでかの~~」とバラを触りながらつぶやいていた姿が思い出されます。
ご自分のために咲いてくれるかけがえのないバラの花。その喜びを共有できることが、生産者として何よりも嬉しいことだと思っています。